本研究は、15種類のヒト口腔癌細胞株を用い、緑茶カテキン成分EGCGのアポトーシス誘導機構を明らかにすることを目的とする。初めに、アポトーシス誘導性のZA株においてEGCGによる細胞内シグナル活性化を解析した。ZA株をEGCGで処理した場合、PARPおよびカスパーゼ3の断片化が6hをピークとして検出された。また、MAPKのうちJNKは1hでのみ活性化されたのに対し、p38は1hおよび4-6hの2段階で活性化されることがわかった。カスパーゼ経路活性化との時間的比較よりp38の2回目の活性化がアポトーシス誘導に関与していると考え、p38のみを特異的に活性化する上流のシグナルとして新規にc-Abl経路を見出し検討を行った。ZA株ではEGCG処理後4-6hでc-Ablの核局在化が確認された。また、ZA株においてc-Abl阻害剤(Imatinib)やc-Abl shRNA vectorによりシグナル阻害実験を行うと、EGCGによるDNA断片化、カスパーゼ3活性およびアポトーシス関連タンパク発現が抑制されることがわかった。同様に、他の口腔癌細胞株においても、c-Abl阻害剤によってEGCGに誘導されるアポトーシスが抑制され、c-Ablがアポトーシス誘導において重要な役割を担っていることが示唆された。一方、本研究で使用した口腔癌細胞株の中で、HSC-4株は正常細胞WI38と同様にEGCGによるアポトーシス誘導が見られなかった。このHSC-4株では、c-Ablの通常発現レベルが低く、またEGCG処理後の核局在化も見られなかった。そこでHSC-4株に対してc-Abl遺伝子を導入し強発現させたところ、EGCG処理後にアポトーシス誘導が観察されるようになった。
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