本年度は以下の実験をおこない、興味ある知見をえた。 1) 細胞培養 ヒト唾液腺多形性腺腫より樹立したSM-AP1/4および転移能の異なるヒト腺様嚢胞癌由来細胞ACC2/Mの各細胞系を、通常の培養条件(10%FCS/5%CO_2)と低酸素条件(1%0_2/5%CO_2/94%N_2)とで5時間培養した後、遺伝子発現の検索のために、細胞回収して全RNAを抽出し、フェノール・クロロホルム法により精製してcDNAを調整した。免疫細胞化学および免疫沈降法のためには、細胞を培養し、経時的に4%パラフォルムアルデヒドにて固定するとともに、細胞層および培養上清を区別して蛋白質を各々回収した。 2) HIF分解抑制関連分子解析 既知のHIF分解関連分子・癌抑制遺伝子pVHLの遺伝子ならびに蛋白質レベルの発現を検索した。pVHLは培養条件による有意な発現レベルの差はみとめられなかったが、細胞間ではACCよりSM-APで低く、SM-AP細胞間では、導管上皮細胞性格のSM-AP1で筋上皮細胞性格のSM-AP4より発現が低い傾向がみられた。蛋白質発現はSM-AP細胞系では遺伝子発現同様の傾向が得られた。 3) HIF誘導関連遺伝子解析 HIFにより誘導される遺伝子のひとつVEGFの遺伝子および蛋白質の発現レベルを検索した。遺伝子発現に関しては、高転移株ACCMおよび多形性腺腫由来細胞SM-APで、低酸素下のVEGFの高発現傾向があった。とくに、定量的PCR法で、VEGF_<121/165>のスプライスバリアントの高発現が確認された。SM-AP細胞系では、低酸素下で蛋白質発現が同様に上昇する傾向がえられた。以上の結果をもとに、次年度はさらにそれぞれの分子機構の詳細を追跡する実験展開をはかりたい。
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