本年度は以下の実験をおこなった。 1) HIF分解抑制関連分子解析 既知のHIF分解関連分子VHLの蛋白質レベルの発現を詳細に検索した。多形性腺腫由来細胞SM-APを通常の培養条件(10%FCS/5%CO_2)と低酸素条件(1%O_2/5%CO_2/94%N_2)とで5時間培養した後、細胞層を可溶化して600μgのタンパク質を調整・回収ののち、免疫沈降法/ウエスタンブロッティング法にて測定したところ、VHLは、導管上皮細胞性格のSM-AP1ならびに筋上皮細胞性格のSM-AP4のいずれにおいても、低酸素条件下よりも通常の培養条件下のほうが高発現していることが確認された。 2) ヌードマウス移植腫瘍でのHIF分子機構解析 2x10^6個/200μlをヌードマウス背部皮下に移植して作製した腫瘤から腫瘍組織を切除、固定し、切片を作成し、免疫組織化学的にHIF-1αおよびVEGFの発現パタンを確認したところ、腫瘍組織内に発現がみとめられた。 3) 実験結果の評価と研究の総括 これまでの実験結果より、多形性腺腫由来細胞では、低酸素下でのHIF-1αタンパク質の高発現およびVHLタンパク質の低発現およびp53の変異によりHIF-1αのdegradationの抑制機構がはたらいており、低酸素状態で核に移行したHIF-1αによりVEGFの高い発現レベルを維持することで、低酸素環境で増殖さらには転移形質を誘導している可能性が示唆された。
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