生体内における石灰化調節に関連するPC-1遺伝子とANK遺伝子に異常を有するマウスのそれぞれの歯周組織の形態観察結果から、歯周組織ではセメント質形成機構と骨形成機構におけるリン酸・ピロリン酸代謝による石灰化調節機序はまったく同じではないことがこれまでに報告されていることを受けて、平成20年度中の本研究においては、歯周組織でのセメント質形成機構と骨形成機構におけるリン酸・ピロリン酸代謝による石灰化調節機序を明らかにするため、セメント芽細胞株、骨芽細胞株を使用してリン酸・ピロリン酸代謝の変化により、それぞれの細胞株にもたらされる影響を検討した。 それぞれの細胞株にリン酸およびピロリン酸を添加したところ、コントロール群細胞と比較して大きな形態学的変化は観察されなかった。しかしながら、経時的な細胞数の計測を行い、細胞の増殖に与えるリン酸およびピロリン酸の影響を検討したところ、リン酸、ピロリン酸を投与した細胞群はコントロール群と比較して細胞増殖が抑制されていた。 リン酸、ピロリン酸の投与により、細胞増殖の抑制がもたらされた結果から、細胞分化は促進されているのではないかと考え、石灰化物形成能の評価を行った。リン酸を添加し石灰化促進培地で細胞を培養し、アリザリン染色で石灰化物形成の評価を行うとコントロール群と比較して早期に石灰化物形成が行われていることが明らかとなった。また、ピロリン酸の添加による石灰化物形成の明らかな変化は観察されなかった。 平成20年度の研究実績より、リン酸によりセメント芽細胞株と骨芽細胞株の細胞増殖活性は抑制される一方で、分化能の促進として石灰化物形成能が促進されることが明らかとされた意義があった。これらの研究実績は、細胞の増殖と分化をリン酸やピロリン酸の単純な添加により制御できることが明らかなった点で重要であった。
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