研究概要 |
劇症型レンサ球菌感染症などのA群レンサ球菌(GAS ; Group A streptococci)が惹起する侵襲性疾患は、物理バリアである上皮細胞層を突破したGASが宿主組織内に侵入し,増殖することにより発症すると考えられている.昨年度までの当該研究において,溶血毒素であるストレプトリジンS(SLS)がGASの上皮バリア突破機構に関与することを見いだした.本年度は,SLSが誘導する宿主細胞間相互作用に着目し,GASの上皮バリア突破機構に宿主プロテアーゼが関与するか否かを検討した. ヒト大腸粘膜上皮細胞(Caco-2)をトランスウェルシステムで培養し,上皮細胞バリアのin vitroモデルとして用いた.宿主細胞内システインプロテアーゼであるカルパインに対する阻害剤で処理した上皮バリアモデルに,劇症型GAS感染症由来のNIH35株(M28型),およびそのSLS欠失株を感染させ,GASの上皮バリア通過能および感染細胞の経上皮電気抵抗値(TER)を測定した.SLS欠失株の上皮バリァ通過能は,カルパイン阻害剤の有無に関係なく一定であった.一方,野生株の上皮バリア通過能は,カルパイン阻害剤の添加により低下し,感染細胞におけるTERの低下は抑制された.また,GAS感染が誘導する宿主細胞間相互作用を,共焦点蛍光レーザー顕微鏡による観察により解析した.その結果.野生株感染細胞では,細胞内プロテアーゼであるカルパインの細胞間隙部位における局在が認められ,オクルディンおよびE-カドヘリンの分解も観察された. 以上の結果より,SLSが誘導するGASの上皮バリア突破機構には宿主プロテアーゼであるカルパインが関与することを明らかにした.
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