本年度は主に、Aurora-Aを脱リン酸化するPP2Aに重点を置いた検討を行った。そこで、PP2Aの活性を制御するメカニズムについて考察するため、Bサブユニットの中でも比較的よく研究されている因子であるB56αについて、その動態制御を検討した。B56αは、細胞周期を通して常に発現量が維持されているが、分裂期ではトライトン不溶画分に移行していることがわかった。また、免疫蛍光染色によって、それが染色体の動原体上に局在していることが確かめられた。また、RNAiとプラスミドを用いた過剰発現系の検討により、B56α自身も細胞分裂期にリン酸化によって活性が制御されており、染色体分配に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。このことは、PP2Aの新しい活性制御機構を明らかにしたのみならず、PP2Aによるタンパクの脱リン酸化が細胞分裂の中で劇的に変化する様々なタンパクのリン酸化状態を制御する為に非常に重要な役割を担っており、リン酸化/脱リン酸化の絶妙なバランスの上に細胞分裂が営まれていることが考察された。次に、口腔癌細胞株におけるB56αのリン酸化状態を調べたところ、ある種の細胞株では、正常なリン酸化調節がなされていないこともあきらかとなった。この結果から、脱リン酸化酵素であるPP2Aは、Aurora-Aなどの癌遺伝子産物を脱リン酸化を介して制御しているのみならず、PP2A活性もまた、癌遺伝子産物を含む様々な因子によって制御されている可能性が考えられた。 本研究結果は、細胞分裂や発癌の鍵因子であるAurora-Aの詳細な制御機構を明らかにしたのみならず、脱リン酸化酵素が細胞癌化の抑制に果たす役割を明らかにし、新たな分子治療薬のターゲットとなりうる可能性まで示唆するものである。
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