研究概要 |
平成20年度の結果より、細胞外基質タンパクとされるf-spondinがセメント芽細胞の分化を細胞内において調節することが明らかとなり、特にBMP-7 mRNAの発現を増強し、石灰化関連遺伝子の発現に影響する可能性が示された。そこで、本年度はf-spondin強発現がBMP-7を介したシグナル伝達に与える影響について検討し、セメント芽細胞のf-spondinを介した石灰化促進メカニズムについて明らかにした。 1.未分化なセメント芽細胞と考えられる歯周靭帯細胞株(HPL)と歯周靭帯細胞にf-spondinを強発現させた細胞株(HPL-spondin)のBMP-7の発現をreal-time PCRおよびwestern blotで比較したところ、いずれにおいてもHPL-spondinにおいてBMP-7の高い発現が認められた。 2.BMP-7のシグナル伝達経路であるSmad1/5/8のリン酸化をHPLとHPL-spondinで比較したところ、HPL-spondinにおいてSmad1/5/8のリン酸化が認められた。 3.TGF-βもBMP-7と同様にmRNAではHPL-spondinにおいて発現増強が認められたため、HPLとHPL-spondinのTGF-βの発現をwestern blotで比較したが、TGF-βの発現は認められなかった。 F-spondinは石灰化関連遺伝子であるアルカリフォスファターゼやオステオカルシン、ボーンシアロプロテインの発現を増強することは既に我々が報告している(BBRC,2006)。 以上の結果より、本研究によりセメント芽細胞の石灰化においてf-spondinがBMP-7発現増強に作用し、TGF-β signaling、特にBMP-7を介して石灰化を促進するように石灰化遺伝子の発現を調節していることが明らかとなった。本研究により我々は、初めてf-spondinが行なうセメント芽細胞の分化調節機構をin vitroにおいて明らかにしたことになる。 今後は、in vitroの結果をトランスジェニックマウスやノックアウトマウスの作製によりin vivoにおいて解明する。さらに、f-spondinは神経細胞では細胞接着にも関わっている報告があることから、f-spondinは石灰化だけでなく、セメント芽細胞のもう一つの重要な機能である歯周靭帯との接着にも関与する可能性がある。歯周組織の再生に重要な石灰化および接着の両方を調節するものとしてf-spondinの機能解明を進めて行く必要がある。
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