味情報はシナプスを介して味細胞から味神経へと伝達される。近年、味細胞・味神経間の主要な神経伝達物質としてATPが注目されている。味細胞は形態学的にI、II、III型および基底細胞に分類され、そのうち酸味受容体が発現するIII型細胞は味神経と古典的シナプスを形成しているが、甘味、苦味またはうま味受容体が発現するII型細胞にはない。そこで本研究では、II型およびIII型細胞のATP放出特性を調べた。単一味細胞の応答記録には、単離したマウス茸状乳頭味蕾を用い、味刺激を味孔側に限局して与えて基底外側膜側より記録電極を当てて活動電位を記録するルーズパッチ記録法を適用した。応答記録後速やかに記録電極内液を回収し、それに含まれるATPをルシフェラーゼアッセイにより定量した。II型細胞、III型細胞を同定するために、味覚関連遺伝子のプロモーターで緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する遺伝子改変マウス(gustducin-GFP)およびノックインマウス(GAD67-GFP)をそれぞれ用い、共焦点顕微鏡下で観察しながら応答を記録した。その結果、II型味細胞にサッカリン、キニーネもしくはMSGを味孔側に投与して味細胞の応答頻度が上昇したとき、記録電極内液にATPが検出された。検出されたATP量は、発火頻度に依存して増大した。本研究では自発発火によってもATP放出が観察されたことから、II型細胞の活動電位がATP放出に重要な役割を担っていると考えられる。また、II型細胞のATP放出はヘミチャネル遮断剤・カルベノキソロンで検出限界以下となったことから、古典的シナプス非依存型のATP放出にはヘミチャネルが関与する可能性が示された。一方、HC1に応答したIII型細胞では、ATPは検出限界以下であった。これはIII型細胞のATP放出量が少なかったか、あるいは別の神経伝達物質を放出している可能性が考えられる。
|