【目的】RaclはRhoファミリーに属する低分子量GTP結合タンパク質で、アクチン細胞骨格系の制御を介した細胞運動など、多くの細胞機能に関わっており、このことから個体発生、発がん、神経細胞ネットワークなど生体の様々な高次機能へ関与することが知られている。申請者は四肢形成におけるRaclの機能を解明する目的で、肢芽間充織細胞でRacl遺伝子を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを作成した。 【方法】バクテリオファージPI由来の組換え酵素CreリコンビナーゼをPrx1遺伝子エンハンサー制御下で発現させることのできるトランスジェニックマウスと、Racl遺伝子エクソン1の両側にloxP配列を挿入したfloxマウスを交配させ、主に胎生期の肢芽間充織細胞でRacl遺伝子を欠損させるコンディショナルノックアウトマウス(Racl cKOマウス)を作成した。 【結果】Racl cKOマウスは出生後、早期に死亡し、離乳時までの生存率は約20%であった。出生時からの体重を経時的に測定したところ、Racl cKOマウスはコントロールマウスと比較し有意に体重の低下が認められた。Racl cKOマウスは四肢に異常が確認され、上肢、下肢ともにコントロールマウスと比較し短く、また合指症を呈していた。合指症の原因として、肢芽指間域におけるプログラム細胞死の不全が考えられた。そこで、胎生13.5日における肢芽指間域のプログラム細胞死をTUNEL法により検討したところ、Racl cKOマウスでTUNEL陽性細胞数が顕著に減少していた。次に、肢芽におけるプログラム細胞死に関与する遺伝子の発現様式をWhole-mount in situ hybridization法により検討したところ、Racl cKOマウスの肢芽指間域でBmp2およびBmp7、Msx1およびMsx2の発現がコントロールマウスと比較し有意に低下していた。
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