<目的>Rac1はRhoファミリーに属する低分子量GTP結合タンパク質で、生体の様々な高次機能を制御している。我々は四肢形成におけるRac1の機能を解明するために肢芽間充織細胞においてRac1遺伝子を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを作製した。その表現型からRac1遺伝子の四肢形成および肢芽指間域における細胞死に対する機能解析を行った。 <方法>CreリコンビナーゼをPrx1遺伝子エンハンサー制御下で発現するトランスジェニックマウスと、Rac1遺伝子エクソン1の両側にloxP配列を挿入したfloxマウスを交配させ、主に胎生期の肢芽間充織細胞でRac1遺伝子を欠損させるマウス(Rac1 cKO)を作製した。 <結果と考察>Rac1 cKOマウスは出生後早期に死亡する。その表現型として、コントロールマウスと比較し、有意な体重の減少、胸骨および頭蓋骨の癒合不全などが認められた。四肢形成に関しては、上肢・下肢ともに短く、また、指の形成不全および第二指から第四指にかけて指間の癒合が認められた。その原因として、コントロールマウスでは胎生12.5日から14.5日において、第二指から第四指の肢芽指間域で起こるプログラム細胞死がRac1 cKOマウスでは認められなかった。Whole mount in situ hybridization法により遺伝子発現様式を検討したところ、肢芽指間域のプログラム細胞死に関与するBmp2およびBmp7の発現が顕著に減少していた。以上の結果から、Rac1は四肢形成および肢芽指間域における細胞死に重要な役割を果たしていると考えられる。また、Rac1 cKOマウス肢芽における遺伝子発現様式の網羅的解析を行うために、マイクロアレイ解析を行ったところ、Racシグナルに関与する多くの遺伝子に発現の変化が認められた。
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