口腔癌におけるbHLH型転写因子DEC1の発現を、分子生物学的手法を用いて解析した。 舌癌手術症例の標本において、DEC1が、非腫瘍部位と比較して、高発現していることが、免疫染色の結果より分かった。一方で、細胞周期制御因子cyclinD1は、非腫瘍部位で、有意に発現が高く、DEC1と逆相関を示した。Luciferase assayとChIP-assayの結果から、DEC1は、cyclinD1のpromoter上のE-boxに結合し、cyclinD1の発現をnegativeに制御することが分かった。Invasion assayやMigration assayからは、DEC1発現が浸潤能や遊走能と正の相関を示した。また、舌癌細胞株で、高濃度血清刺激法により、DEC1が概日リズムを形成する知見が得られた。概日リズムの分子制御機構には、時計遺伝子の転写・翻訳のフィードバック機構と時計遺伝子と細胞周期制御因子の相互作用が重要とされており、これらの結果から、DEC1がcyclinD1を制御して、口腔癌の概日リズム機構を制御していることが示唆された。口腔癌の浸潤・転移もDECを介した概日リズムのもとで制御されている可能性があるので、今後の口腔癌の発育進展機構のさらなる機序の解明に貢献しうる。一方で、DEC2の口腔癌における発現意義は、未だ明らかにされておらず、今後の研究課題である。以上のことから、口腔癌の発育進展機構には、DECを介した概日リズム機構が関与しており、概日リズム機構を考慮した新たな治療戦略の解明に繋がると考えられる。
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