研究概要 |
組織のリモデリングや血管新生に関わる因子MMP-3が,転写調節因子として組織再生遺伝子CTGF/CCN2の発現を促進するという新しい知見に基づき,そのターゲット遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に解析しました.各種プラスミドベクターの遺伝子導入によって,293細胞内部に全長MMP3,PEXドメイン,Catドメインをそれぞれ発現させ,空ベクター導入をコントロールとし,それらの4種類の条件で総RNAを回収後,cDNAを合成してマイクロアレイに供しました.28869遺伝子について解析した結果,最も発現変動があった遺伝子は,HSP70B^'(HSPA6)でした.HSP70B^'遺伝子は細胞にストレス耐性を与える遺伝子であり,コントロールと比較して,細胞内全長MMP3によって12.6倍,PEXドメインによって9.1倍,遺伝子発現が上昇しましたが,Catドメインによっては変化しませんでした.その他の遺伝子の発現変動は,0.36~2.8倍の範囲内でした.HsP70B^'の発現変動をqRT-PCRで解析したところ,細胞内全長MMP3によって150倍程度その発現が上昇し,PEXドメインによっては70倍程度の上昇を認め,またCatドメインによっては変化しませんでした.これらの結果から分かることは,細胞内MMP3はストレス耐性遺伝子HSP70B^'を特異的に発現誘導することと,その誘導の主体はPEXドメインであること,Catドメインは補助的な役割を果たすことです.この知見は,細胞内MMP3が細胞にストレス耐性を与えるというポジティブな新機能をもつことを明らかにしたものであり,生体における感染制御および酸化ストレスの処理にとって意義深い重要な知見です.
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