Enterococcus faecalisは、歯内う蝕病巣から水酸化カルシウム製剤が奏功しない難治性病巣という、幅広い歯内疾患、すなわち酸性環境からアルカリ性環境にわたる広範なpH環境に生息すると言われている。同菌の有する、特徴的なpH耐性機構がその生息理由と推定されるが、本研究は、その機構の詳細について探究することを目的としている。E. faecalisを嫌気条件下、(1)広範囲なpHで培養し、増殖限界pHを求めた。次いで、(2)広範囲pHに菌体を晒した時の菌体膜のpH耐久性を求めた。さらに、(3)代謝能(代謝活性)を糖を基質とした場合の酸産生活性を基に求めた(pHスタット装置を使用)。何れの実験においても、コントロールとして、Streptococcus mutansとStreptococcus sanguinisを用いた。その結果、E. facealisなは酸性からアルカリ性という広範囲なpH環境でコントロール菌種と遜色なく、(1)増殖可能であり、(2)比較的、高い菌体膜のpH耐久性が認められ、また、(3)旺盛な代謝活性を発揮した。本年度の研究の結果、生物学的特異性として、E. faecalis的はアルカリ性という高pH環境下で高い代謝活性を有することが示唆された。次年度以降は、広範囲pH環境におけるE. faecalisの挙動の違い(S. mutansやS. sanguinisと比較して)の機構について、探究を継続する予定である。
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