【背景】Enterococcus faecalisは、歯内う蝕病巣から水酸化カルシウム製剤(pH12.4)が奏功しない難治性病巣という、幅広い歯内疾患、すなわち酸性環境からアルカリ性環境にわたる広範なpH環境に生息すると言われている。昨年度までの研究で、糖を基質とした増殖能においてはE. faecalisはう蝕関連菌であるStreptococcus mutansと同等の耐酸性とS.mutansよりも高い耐アルカリ性を持つことが明らかとなっている。しかしながら歯内う蝕病巣では糖質の供給は少なく、滲出液として血清および白血球や細菌由来タンパク質分解酵素による歯髄組織分解産物であるタンパク質、ペプチド、アミノ酸が供給される。したがって今年度は、酸性環境からアルカリ環境におけるE.faecalisのアミノ酸を基質とした増殖能について比較・検討した。【方法】E.faecalis JCM 8728、S.mutans NCTC 10449を0.5%アルギニン含有複合培地(pH3.0-12)にて嫌気培養し、48時間後の増殖量(濁度)を吸光分光度計にて測定した。【結果と考察】E.faecalisはpH4.0-11.0の広範囲において高い増殖を示したが、S.mutansではpH5.0-8.0の狭い範囲かつ低い増殖を示した。以上のことから、う蝕病巣のように糖が多量に供給され低pHが持続する環境ではS.mutansが優勢であり、糖が供給され難い歯内う蝕病巣や水酸化カルシウム製剤を貼薬してもなお難治性病巣を呈する環境では、滲出液中のアルギニンなどのアミノ酸を利用しての増殖可能であるE.faecalisが優勢となることが示唆された。
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