アパタイトは生体親和性が良く、優れた骨伝導性を有するため、失われた骨組織の修復に有用であることが知られている。一方、アテロコラーゲンは抗原性が少なく生体内で徐々に吸収されるため、バイオマテリアルとして臨床の場で広く用いられている。37℃においてアテロコラーゲンを再線維化し、アルカリフォスファターゼとフォスビチン溶液中で架橋後、β-グリセロリン酸カルシウム溶液に浸漬するとアパタイト-コラーゲン複合体が作製でき、この複合体は高圧、高温加熱の方法を用いず、生体温度に近い条件で作製できるため、より生体に合致した材料となることが期待されている。また、適度な弾性を持ち、骨伝導性にも優れている。しかしながら、この方法で得られる複合体は、塊状を呈するため、根管細部への応用が困難であった。そこで今回、根管細部填塞に適した形状および性状を持つ綿様アパタイト-コラーゲン複合体を作製し、得られた複合体の物理化学的性質および操作性を検討し、さらに実験的に破壊した成犬の根尖部に複合体を填塞し、生体材料としての有用性を評価した。 その結果、SEM観察によりコラーゲン線維上にナノメーターサイズの顆粒が析出し、その量は経時的に増えていくことがわかった。TGによりその析出量は反応開始から2日間で増大し、1日で約60%、2日で約80%となり、その後ほとんど変動がないことが判った。XRDにより、析出相はアパタイトであると同定できた。また、この複合体を根管経由で根尖部に填塞したところ、填塞8週において、根尖部から象牙質面に沿って新たな硬組織が形成され、根尖約1/3で根管腔内を閉鎖していることが判った。対照としての無填塞群は、根尖部においてセメント質の増生を認めたものの、根尖部の閉鎖は認めず、根管狭窄にとどまっていた。以上より、綿様アパタイト-コラーゲン複合体は根管治療の予後に有効な結果をもたらすことが期待された。
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