研究概要 |
歯科領域において歯や歯質(象牙質やエナメル質)の再生を目的とする再生療法が注目され、培養法などが確立されているマウスのES細胞を用いた歯周組織の再生の研究は、国内外で始まりつつある。私は、ヒトES細胞を用いた細胞導入治療法が従来のう蝕治療法や覆髄法に代わる有効な手段となる可能性があると考え、まず、マウスES細胞を用いて基礎的検討を行うために本実験計画を作成した。平成20年度の本研究の具体的到達目標は、マウスES細胞を用いて、胎生期に神経管愈合部から発生し、色素細胞、末梢神経系細胞、軟骨細胞そして象牙芽細胞に分化すると言われている神経堤細胞を分化誘導し、さらに、歯周組織、特に未だ再生のメカニズムが解明されていない象牙質の再生を目的に、象牙芽細胞への分化のメカニズムについて検討を行うことであり、以下の結果を得た。1. マウスES細胞の神経堤細胞への分化誘導とその評価 : マウスES細胞を通法に従い培養した後、Hanging drop法を施し、RA(レチノイン酸)存在下で3日間、ペトリディッシュを用いて浮遊培養させ、その後、コラーゲン上に細胞を播種し、7日間培養を行った。そして、神経堤細胞の特異的なマーカーであるFoxD3とSox10の遺伝子発現をRT-PCR法を用いて観察した。その結果、マウスES細胞はRA添加により著明なFoxD3とSox10の遺伝子発現が観察された。2. 象牙芽細胞への分化誘導とその評価 : (1) 1. で分化誘導したマウスES細胞にTGF-β、BMP-2、Dental Matrix non-collagen proteins (DMNCPs)の添加群とBMP-4添加群とで、1, 3, 5, 7, 10, 14日目での形態学的変化を光学顕微鏡下で観察した。その結果、両群において、10日目から長楕円型への明瞭な形態学的変化が観察された。(2) 象牙質に特異的なマーカーであるDSPP(象牙質シアロリンタンパク質)の遺伝子発現をRTPCR法を用いて観察した結果、著明なDSPPの遺伝子発現が観察された。(3) 象牙質に特異的なマーカーであるDSP(象牙質シアロタンパク質)の発現を蛍光免疫染色法を用いて観察した結果、長楕円型のDSP陽性細胞が観察された。
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