顎口腔機能の評価方法として筋電図法が広く用いられている。針筋電図は個々の運動単位を鑑別可能であり筋活動を高精度で評価できる。しかし、臨床的に針電極の使用は、電極刺入時の疼痛や精神的苦痛の問題がある。非侵襲的かつ簡便な方法として表面筋電図法があるが、深部の筋や周囲に他の筋が密集している部位の筋活動の導出・分離は困難である。そこで本研究では、顎筋から同時記録した表面筋電図および針電極による筋電図を信号処理し比較・検討することにより、表面筋電図信号から筋深部の筋活動を同定することを目的とした。 まず、顎口腔機能に関与する咬筋の筋活動に焦点を当て、様々な被験運動を行わせ表面電極と針電極から筋電信号を同時に記録し、表面筋電図から得られる筋活動をフィルタ処理、周波数分析などの信号処理を行う。信号処理された表面筋電図と針筋電図とのデータを比較することにより、表面筋電図がどの程度顎口腔機能を評価することが可能であるのかを検討した。 予備実験として成人健常男性1名を用いて、右側咬筋から針・表面筋電図の同時記録を行った。塩化銀皿電極を筋線維走行と平行に筋中央部に設置(電極間距離10mm)し双極導出した。針電極にはテフロン被覆ステンレス鋼製電極を用い、表面電極間の中点に刺入深度15mmとなるように設置した。被験運動は軽度・中等度・強度の随意噛みしめを指示し、筋電信号を同時記録し、デジタルフィルタリング処理、周波数処理等の信号処理を行った。その結果、表面筋電図上に針筋電図を分離して得られた運動単位活動電位と同じ活動電位が認められた。しかし、ノイズの混入も少なからず認められたため、現在、筋電信号の獲得精度を向上させるための環境整備や表面電極の形態、電極間距離等を検討するとともに、筋電信号の時空間的な修飾を考慮し、微分やSonogram処理等のさらなる信号処理・分析方法についてさらに探っていく予定である。
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