本年度は、若年有歯顎者10名を対象として、前年度とは異なる部位でのクレンチングを異なる咬合力で行った際の全咀嚼筋の活動を、mfMRIにて定量的に解析した。 左側第一小臼歯のみでのクレンチングを被験運動とし、各被験者の最大噛みしめ咬合力を100%WVC(maximum voluntary clenching)とした時の20%MVCおよび40%MVCの咬合力でクレンチングを1分間行わせた。被験運動の前後(安静時、運動直後)において運動による筋活動を測定するために頭部のT2強調MR画像を撮影した。なお、20%WVCと40%WVCのMR撮影は、筋の疲労を避けるため約1週間の間隔を空けた異なる日に行った。各被験者のMR画像の全スライス上で、全咀嚼筋の外形をトレースすることにより関心体積を設定した。各関心体積の平均T2値を測定し、運動後と安静時の平均T2値の差分から各筋の平均ΔT2値を筋活動の指標として算出した。 その結果、各咀嚼筋のΔT2値は前年度に測定した左側第一大臼歯のみでのクレンチング時のΔT2値と同様の傾向を示したが、外側翼突筋は個人差が大きく20%MVCと40%MVCの間の値の変動も非常に大きく不安定であった。各咀嚼筋の平均ΔT2値を前年度に測定した左側第一大臼歯のみでのクレンチング時の各咀嚼筋の平均ΔT2値と比較(t検定)した結果、20%MVCと40%MVCの左咬筋深層で有意な減少が、40%MVCの左外側翼突筋上頭で有意な増加が検出された。咬筋深層の筋線維は浅層の筋線維とは異なる方向に配列しているため、クレンチングの部位が前方に移動したことによってクレンチング側の咬筋深層の筋活動が有意に低下したものと考えられる。また、作業側の外側翼突筋上頭は、関節円板や下顎頭を安定させる働きを担っていることが示唆されている。40%MVCの左外側翼突筋上頭での有意なΔT2値の増加は、クレンチング部位が前方に移動したことによる下顎頭の不安定化を反映していると考えられる。今回の結果は、咬合状態の変化に伴う咀嚼筋活動様相の変化をmfMRIによって定量的に評価可能であることを示す。
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