高齢者のMR画像を撮影し若年者との比較を行う予定であったが、若年者の咀嚼筋活動様相について更に踏み込んだ解析を行った。健常有歯顎者9名のMR画像を解析対象として用いた。運動タスクは、左側第一大臼歯もしくは左側第一小臼歯でのクレンチング(それぞれL6、L4クレンチング)とし、最大噛みしめ咬合力を100%MVC(100% maximum voluntary clenching)とした時の20%および40%MVCで1分間維持させた。MRI撮影は安静時および各運動タスク直後に行った。各被験者のMR画像の全スライス上で各咀嚼筋の外形をトレースすることにより関心体積(volume of interest:VOI)を設定し、各VOIにおける平均T2値と平均ΔT2値(タスク前後の平均T2値の差分)を算出した。 各VOIの平均T2値のタスクに伴う変化について反復測定分散分析と多重比較(Dunett)を行い、咬筋と外側翼突筋では各VOIの平均ΔT2値について多重比較(Games-Howell法)を、内側翼突筋と側頭筋では左右側の平均ΔT2値についてt検定を行うと共に、L6クレンチングとL4クレンチング間で各VOIの平均ΔT2値をt検定によって比較した。更に、各VOIにおけるΔT2値の相関分析を行い、Pearsonの相関係数を算出した。各統計処理の危険率は5%に設定した。 40%MVCのL6クレンチングでは、咬筋において対側深層のみが他の部位と比較して活動が有意に低く、これまでの筋電図による報告とは異なる新たな知見が示された。内側翼突筋は左右同程度の活動を示したが、相関分析において同側と対側がそれぞれ異なる筋との相関を示し、両側で果たす機能が異なることが示唆された。外側翼突筋上頭は他の筋との相関が低く、他の咀嚼筋とは独立して制御されていることが示唆された。また片側クレンチング時の咬合部位が第一大臼歯から第一小臼歯へ移動するにとによって、同側外側翼突筋上頭の活動が有意に高くなることが明らかになった。本研究によって、片側クレンチング時の全咀嚼筋の活動様相が示され、特に外側翼突筋上頭の制御について新たな知見が得られた。
|