研究概要 |
一般的に上顎全部床義歯は. その維持力ならびに機械的強度の確保のために口蓋正中部を床により被覆する. しかし, この部位の義歯床による被覆は, 粘膜への外来刺激の遮断および床の厚みによる舌運動の障害が予想される. そこで本研究課題は, 義歯の口蓋部床縁形態が口腔感覚運動能力および咀嚼機能に与える影響を調べることで, 上顎全部床義歯のより機能的な床縁形態を明らかにすることである. 平成20度においては, 正常有歯顎者を対象とし, 口蓋部の形態に相違のある2種類の実験用口蓋床が咀嚼効率と口腔感覚運動能力に与える影響, およびそれらの関係に与える影響を調べた. 咀嚼効率はピーナッツによる篩分法を用いて算出し, 口腔感覚運動能力の評価には口腔形態認識能(OSA)試験を用いた. 被験者は15名の健常有歯顎者(平均26.4歳)とし, 2種類の実験用口蓋床は, 口蓋正中部を被覆しない無口蓋型(A床), 口蓋正中部を被覆する有口蓋型(B床)を使用した. 咀嚼効率は, 口蓋床非装着時と比較してB床の装着により有意に低下したが, A床の装着は有意な影響は及ぼさなかった. また, OSAスコアは口蓋床の装着の有無による有意な影響は受けなかった. 以上より, 口蓋正中部を被覆しないA床の装着は, 咀嚼効率に影響を及ぼさないことが明らかとなった. 一方, 口蓋正中部を被覆するB床の装着により咀嚼効率は低下し, 口蓋正中部の床の厚みによる舌の運動障害によって, 咀嚼機能に障害を与える可能性が示唆された.
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