研究概要 |
海馬のアンモン角(CAI, CA3)領域では様々な因子による影響で細胞死が引き起こされることが報告されている(Zhao Het.al. Neuroscience Letter421(2) : 115-120 ; 2007 Jun27)。我々は今までの研究で、口腔環境の変化が海馬歯状回での神経新生に与える影響を調べてきたが、神経新生が起こりやすい状況ばかりでなく、アンモン角での神経細胞死を減らす口腔環境を見つけることが海馬全体での神経細胞数を増やし、そのことが記憶形成の過程に関わるものと考えている。 このため本研究では、コントロール群と8週齢で上顎臼歯部の歯をすべて抜歯したラットを用いて、(1) 咬合支持の喪失といった口腔環境変化が、海馬のアンモン角(CA1, CA3)領域における神経細胞死にどのような影響を与えるのかを検証する。(2) 細胞障害で知られる活性酸素が海馬のアンモン角領域における神経細胞死にどの程度影響を与えるのかを検証する。アルツハイマー病ではアミロイドβによって活性酸素が産生され、神経細胞死が引き起こされることが知られているため、海馬のアンモン角領域での神経細胞死にも影響している可能性があると考えられる。 20年度には、コントロール群と臼歯喪失群のラットを12週齢(若年期)まで飼育した後、ESR測定法を用いて全身麻酔下でMC-PROXYLを尾静脈より注入し、30秒後に脳の摘出を開始した。MC-PROXYL投与から2分後にL-band ESR(JES-RE3X型)にて脳のMC-PROXYLの減衰速度の測定を開始した。統計処理の結果より臼歯喪失群の摘出脳のMC-PROXYLのシグナル減衰はcontrolに対して有意差は認められなかった。今回の結果では、抜歯後1ヶ月後では有意差は認められなかった。これは臼歯喪失の期間が短く若齢期で老化がほとんど進んでいないため影響がなかったと考えられる。今後は抜歯してから測定までの期間を長くして検討していく必要がある。
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