QOLの向上のために口腔の健康維持が必要であると考えられているが口唇機能については軽視されているのが現状であり、その大きな理由としては、口唇が発揮する力の測定法が絶対値でしか論じられていないことが問題であると考えられる。さらに、口唇閉鎖力は方向により異なり、その分布には個体毎の特徴が表れると考えられる。つまり口唇の解剖・生理を考えると、口唇機能の評価に多方向からの力を測定し、その分布を用いるという方法は非常に有用であると考える。国内外を問わず、口唇の機能評価について多方位口唇閉鎖力を用いて行った研究は無い。 本研究は松本歯科大学で開発された多方位口唇閉鎖力測定をより発展させ、高齢者の口唇機能を評価することを目的とし、さらに、補綴治療に伴う経年変化を調べる前向き研究とする。 本研究の遂行のために、小型多方位口唇閉鎖力測定装置の開発・改造を行い、十分な性能を持つ装置が完成した。研究協力に承諾を得た塩尻市および山形村在住の高齢の健常者(119名)に対して、多方位口唇閉鎖力測定を行った。これと同時に体重・身長および握力の測定、一般口腔内診査(口腔内チャート、歯周検査など)、アンケート調査も行った。この結果、口唇閉鎖力は年齢に関係せず、男性の方が女性より大きかった。また、成人(27名)と比較すると有意に小さかった。総合力は男女いずれにおいても身長・体重・握力との間に弱い相関が認められた。さらに義歯の有無では有意差が認められず、咬合支持域により分類すると、女性のみで咬合支持域の数が少ない群の方が多い群よりも小さかった。 昨年度の結果より健康高齢者の基準となるような多方位口唇閉鎖力の値を見出すことができ、前年度からの課題であった、義歯新製患者を対象とした研究を今年度は遂行する予定である。
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