研究概要 |
本研究の目的は,多方位口唇閉鎖力測定装置を用いて,健常高齢者における口唇閉鎖力の特性ならびにその体格・握力・残存歯の状態との関連を検討することである.長野県在住60歳以上の健常高齢者139名(男性62名,女性77名,平均年齢69.6±5.2歳)を対象とし,口唇閉鎖力,身長,体重,握力,歯の状態ならびに義歯装着の有無をそれぞれ記録した.口唇閉鎖力は,最大努力での口すぼめ運動時の多方位口唇閉鎖力を測定した.多方位口唇閉鎖力とは、口すぼめ運動時の口唇の力を8方向別に測定したものである.口唇閉鎖力の性差の有無,対称的方向別口唇閉鎖力間の関連さらに,全8方向における口唇閉鎖力の総和(総合力)と年齢,体格,握力ならびに残存歯数,前歯保全の有無,アイヒナー分類による臼歯咬合支持域,義歯装着との関連について統計学的解析を行った.その結果,男性の総合力は女性に比し有意に大きかった.方向別口唇閉鎖力は,垂直方向,斜め方向,水平方向の順で大きかった.対称的方向別口唇閉鎖力間において,有意な相関が男性の3方向に認められず,また大きさの対称性が,女性の4方向に認められなかった.男性では,身長,体重と口唇閉鎖力との間に弱い相関が認められたのに対し,女性では,そのような傾向は見られなかった.また男女ともに総合力と残存歯数との間に関連は見られず,アイヒナー分類別総合力の大きさにも有意差を認めなかった.男性において,義歯装着者は未装着者に比し総合力は有意に大きかった.これらの結果から,高齢者における口すぼめ時の口唇閉鎖力には,小児,若年成人とは異なる方向特異性が見られた.また高齢者の口唇閉鎖力は年齢,残存歯の状態との関連は見られなかったが、義歯装着に関連性を有することが示唆された.
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