研究概要 |
腫瘍や外傷に起因して,上下顎のいずれかに広範囲な顎骨欠損が生じた場合,その口腔機能には重篤な障害が惹起される.そのような症例に関する口腔機能回復には,顎義歯の装着が必須となるが,顎義歯装着者における機能回復程度は個々の口腔内状態によって大きく異なるため,統一した機能回復指針を構築する事は極めて困難である.そこで,この種の症例の咀嚼機能に特化した指標の構築を目標に,その評価法も含めて検討した. 先ず,現在の顎義歯装着者(上顎骨欠損20名,下顎骨欠損19名)における咀嚼機能を主観的・客観的に評価した.それは咀嚼スコアの算出,咬合力測定,2種類の試験材料による咀嚼能力の評価であるが,咀嚼スコアは摂食可能食品アンケートの結果から算出し,咬合力測定では,最大咬合力,咬合接触面積,接触点数を評価した.試験食材にはグミゼリーおよびワックスキューブを用いたが,それぞれ咬断能力と混合能力を評価するものである.また,骨欠損の形態や残存歯数,咬合支持,対咬関係についても評価した.それぞれの項目に関して,ピアソンの相関分析およびt-testを用いて関連性を検討した. 得られた結果から,2種類の試験食材による咀嚼能力には相関性が確認されなかった,また,混合能力に関しては,他の項目間との相関は認められなかった.咬断能力に関しては,上顎骨欠損および下顎骨欠損ともに,咀嚼スコア,咬合接触面積,接触点数との間に強い相関が確認された.ただし,欠損形態や,残存歯数咬合支持,対咬関係に関しては,咬断能力との間に有意な相関は確認されなかった. 今回,顎義歯装着者の咀嚼能力の現状を多角的に確認したが,顎骨欠損を有する症例における咀嚼能力に関する指標を構築するにあたり,グミゼリーを用いた咀嚼能力試験,咬合接触関係の測定,咀嚼スコアの算出がパラメータとして有効である事が示唆された.
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