本研究は歯科補綴治療で高頻度に使用されているメチルメタクリレート(MMA)材料の生体為害性を低減させることを目的としている。この問題は残留モノマーの溶出が引き起こすことが主であり、長年議論されているが問題は解決されているとは言い難い。本学では、これまでに高分子材料の重合促進と架橋反応を起こす低エネルギー電子線(LEB)を歯科用メチルメタクリレート系樹脂(MMA樹脂)である義歯床用加熱重合レジンや義歯のリライニング用即時重合レジンに照射すると、MMAモノマーの溶出量が減少することと、LEB照射がMMA樹脂の物性に与える影響を検討し報告してきた。 平成22年度は、LEB照射がMMA樹脂の物性に与える影響を検討するために、LEB未照射と照射を行った加熱重合レジンの被着試験片に即時重合レジンを接着し、せん断様の試験から接着強さについて検討した。 (1)試験材料には被着レジンとして加熱重合レジン、接着レジンとして即時重合レジンのを用いた。形態は20mm×40mm×4.5mmの板状に調整した。被着レジン表面は平滑となるように研磨機に耐水研磨紙を取り付けて研磨し。サンドブラスト処理後、精製水により超音波洗浄した。そして、被着レジン表面に内径5mmの金属製の円管を静置し、接着面積を規定した。次に、メーカー指示の粉液比で混和した接着レジンを金属管内に注入し、接着試験用の試験片とした。 (2)LEBはLIGHTBEAM-L EC110/15/70L(岩崎電気)を用い、窒素ガス雰囲気中にて、加速電圧110kV、吸収線量300kGyの条件で試験片片面に照射した。 (3)接着試験は各試験片を万能試験機を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minにて試験した(n=7)。 (4)接着強さの結果は、LEB未照射の条件とLEB照射を行った条件間に有意差は認められなかった。今回の試験からは、LEBを照射した加熱重合レジンの被着面に即時重合レジンを接着する条件で、接着強さが大きくなる傾向が示唆された。また、破断面の観察ではLEB未照射では界面破壊であったが、LEB照射後の被着レジンに接着レジンを接着する条件では混合破壊もしくは被着材破壊に近似した様相を呈していた。
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