研究概要 |
異なる化学組成のリン酸カルシウムナノ微粒子上で骨芽細胞様細胞を培養し,生体界面に析再する石灰化組織の物理・化学的特性を検討した.培養一週間後のHAおよびTCP上に石灰化組織が析出した.細胞培養後にみられるHAおよびTCPサンプル上の石灰化組織はX線回折分析の結果,結晶構造的には違いがなく,アパタイト様の石灰化組織が析出していた.しかし,赤外分光分析およびX線光電子分光分析法でさらに追究すると,TCPサンプル上の石灰化組織は細胞外マトリクスと無機成分であるリン酸カルシウムの反応性が高く,HAサンプル上の石灰化組織と比較して,高架橋の骨様複合体であることが判明した.赤外分光分析では細胞培養後のTCPサンプル上の石灰化組織でリン酸基の重合反応が検出された.このためTCPサンプル上では細胞が産生したコラーゲンマトリクスと無機イオンとの架橋反応が促進される,化学構造の違いは,力学的性質にも影響した.ナノインデンテーション法による分析で,TCPサンプル上の石灰化組織の値は,硬さ・弾性係数ともに象牙質および海綿骨の値とほぼ一致し,これらと同様粘りのある構造体であるといえる.一方,HAサンプル上の石灰化組織は硬さ・弾性係数ともにきわめて高く,たわみが少なく,もろい構造体であることが判明した.過去の文献から,皮質骨の値であっても海綿骨の2倍から大きくても3倍程度であり,HAサンプル上の石灰化組織は少なくとも物理的には骨と全く異なる構造体である.歯科用生体材料と骨との界面組織は,咬合力を負担する機能材料としてきわめて重要な生体構造物であると考えられる.HAの骨形成能が高いことは疑いようがないが,単に組織切片を染色するだけではわからない,物理的性質が骨と大きく異なる構造体をHAと骨組織との界面に析出している可能性が示唆された.
|