本研究は、口腔内をシミュレートした環境で歯科用合金としてのチタン合金の耐変色性および耐食性を評価する方法を確立することを目的としている。そのためには、変色や腐食の原因物質とされる過酸化物やフッ化物による変色度、動電位分極特性や金属元素溶出量のみならず、口腔内タンパク質の影響を考えて総合的に解析する必要がある。 今年度は過酸化水素を含む酸性生理食塩水に数種類のチタン合金を浸漬し、その変色程度および表面分析を試みた。その結果、酸性環境(pH4)においては、変色したチタン合金(純チタンおよびTi-6Al-4V、Ti-6Al-7Nb)は酸化膜の厚みが増加し、変色程度が小さかったTi-20Cr合金ではその酸化膜の厚みは他の合金と比較して著しく薄かった。一方で、変色の有無にかかわらず値過酸化水素を含む生理食塩水に浸漬したチタン合金表面には過酸化物を含む金属過酸化物ゲルが生成している様子が検出された。これらの結果から、チタン合金を酸性の過酸化物が存在する環境に曝されると、チタン合金表面に金属過酸化物ゲルが生成し、それがチタン合金表面の酸化を進行させ、チタン合金を変色させていると考えられる。その酸化の進行程度すなわち変色程度は、合金を構成する元素によって大きく異なり、特にTi-20Cr合金の変色程度は小さいことから過酸化水素による変色は起こりにくいことを明らかにした。 これらの結果および考察は、チタンにクロムを合金化することで口腔内で起こる炎症に対して耐食性の高い合金開発に有用な情報である。
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