顎関節症患者の滑膜組織には炎症性変化、線維化、石灰化などが生じている報告はなされているが、そのような組織学的変化の誘発や進行過程に関わる因子は全くもって不明であり推論の余地を過ぎないのが現状である。本研究の目的は、まず正常な顎関節滑膜組織を形態学的、生物学的に明らかにしたのち、その情報をもとに異常顎関節モデルを作成して、免疫組織化学的、微細構造学的手法ならびに分子生物学的手法で、顎関節滑膜組織がたどる退行性組織変化とその誘発および進行因子を、形態学的、生物学的に明らかにすることである。 申請した研究計画にもとづき、まずは生後30日齢のラット顎関節滑膜組織を観察した。生後30日齢ラットのH-E標本では、上下関節腔がはっきりと形成されており、前方、後方部では滑膜ヒダの形成もみられた。また滑膜表層細胞は2〜5層を形成していた。免疫組織学的に、Hsp25免疫陽性のB型細胞は、前方、後方ともに、滑膜表層に配列するタイプと、やや深部に細胞体を位置しその細胞質突起を関節腔表層に伸ばしているタイプが観察された。透過電顕では、免疫陽性細胞は円形で明るい核をもち、豊富な粗面小胞体を有する細胞質を特徴とし、その細胞質突起を関節腔にむけて伸ばしていた。一方、免疫陰性のライソゾームや偽足様突起をもつA型細胞は、滑膜表層からわずか深部に存在していた。また、基底膜の構成要素であるlamininによる免疫染色では、その陽性反応が滑膜表層細胞の細胞膜や細胞質突起に限局してみられ滑膜表層を覆っている様子が観察され、透過電顕でその陽性反応はB型細胞のみに認められた。今後はさらに観察を続けるとともに、異常顎関節モデルを作成してその組織学的変化を比較検討していく予定である。
|