研究概要 |
マスピンは1994年Zouらによりはじめて報告された42kDaのセリンプロテアーゼインヒビターであり、多くの正常組織にその発現が確認されている。生物学的作用としては現在までに腫瘍抑制作用、血管新生抑制作用が知られている。これらはマスピンがプラスミノーゲンアクチベーターを阻害することにより発現すると考えられている。これまでに当教室では活発に骨形成をしている正常骨芽細胞にマスピンが発現していること、マスピンがplasminなどのセリンプロテアーゼの活性を制御し、細胞外基質中への潜在型TGF-βの蓄積の促進を介して骨形成過程、特に骨基質の成熟において重要な役割を担っていることを確認した(J Bone Miner Res22(10) : 1581-1591, 2007)。一方関節軟骨組織においても組織破壊と新生がダイナミックに起こっているにもかかわらず永久軟骨は破壊されずに維持される。このためにはセリンプロテアーゼインヒビターが関節軟骨などの永久軟骨維持に関与している可能性が考えられ、マスピンに着目した。この結果マスピンが関節軟骨の永久軟骨に発現していることが免疫組織化学的にはじめて確認された。さらにラット膝関節腔内においてマスピン蛋白質の作用を阻害することにより著明な関節破壊が起こることを組織学的に確認した。この結果はマスピン蛋白質が永久軟骨の恒常性維持に必須であることを示唆する初めての所見であり、同時に軟骨代謝に重要な役割を担っていることを示唆するものである。マスピン蛋白質が関節軟骨恒常性維持に重要な役割を担うことが示唆されることから今後治療薬として用いることを念頭に研究を進める予定である。
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