これまで波長域に7~12μmのピークを有する特性遠赤外線照射が、熱ショック蛋白質であるHSP70蛋白質の発現量に依存して口腔癌細胞の増殖を抑制することを報告してきた。一方で、HSP70蛋白質の発現が他の癌細胞に比べ高い発現を示す乳癌細胞では特性遠赤外線照射による増殖の抑制効果は認められなかった。さらに、特性遠赤外線照射下における癌細胞の熱ショック蛋白質の発現について検討を行った結果、熱ショックタンパク質であるHSP70の発現が、遺伝子解析の結果、口腔癌細胞のみならず肺、乳癌においても癌細胞内に恒常的に発現するHSP70蛋白質の発現量が低いほど特性遠赤外線照射による癌細胞増殖抑制効果が増強することが分かった。そこで実際にHSP70蛋白質の発現を遺伝子および蛋白質レベルで検討した結果、HSP70蛋白質の発現レベルの高い外陰部癌細胞では特性遠赤外線照射による増殖抑制効果は認められず、HSP70蛋白質の発現レベルの低い歯肉および舌癌では増殖抑制効果が認められた。またHSP70蛋白質の発現レベルを遺伝子操作によって抑制した場合には、特性遠赤外線照射による癌細胞の増殖を抑制する効果が示唆された。このことから本研究を臨床応用する場合、事前に癌組織より癌細胞を採取し、HSP70タンパク質の発現レベルを定量することで特性遠赤外線照射が癌細胞の増殖抑制に効果を発揮するか否かを判断することができると考える。また、恒常的にHSP70タンパク質レベルの高い癌細胞においてもHSP70タンパク質を阻害する薬剤等を開発することで特性遠赤外線照射による癌細胞増殖抑制に有意に働く可能性について検討する必要がある。
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