本研究では、ΔNp63とp75NTRの発現に着目し、その局在と分化型との相関、またin vitroでの両マーカーの発現と機能解析、さらに樹状細胞を用いた免疫療法につながるターゲットをしぼるための解析を進めていく予定で研究を進めてきた。 1) 口腔扁平上皮癌(OSCC)におけるΔNp63の発現と機能:ΔNp63のOSCC細胞株(HSC-2、HSC-3、SQUU-A、SQUU-B、SAS)におけるΔNp63 mRNAの発現およびΔNp63 siRNA遺伝子導入による各種分化マーカーのmRNA発現量の変化を検索した。その結果、OSCCにおいてΔNp63は細胞分化を制御することにより、癌細胞を未分化な状態に維持するとともに、細胞増殖活性にも関与していることが示唆された。また、siRNA遺伝子導入により細胞の異型性が認められ、上皮間葉転換が起こっており浸潤にも関与している可能性が示唆された。 2) OSCCおよび口腔白板症(OL)におけるp75NTRの解析:OSCCおよびその前癌病変である口腔白板症におけるp75NTRの発現様式を検索するとともに、p75NTRが口腔扁平上皮癌の癌幹細胞のマーカーとして有用であるかについて検討を行った。 OLおよびOSCC病理組織標本での免疫組織化学染色によるp75NTR、Ki-67(細胞増殖活性マーカー)の発現の検索を行った結果、OL上皮異形成の程度が上昇するとKi-67陽性率は有意に上昇していたが、p75NTR陽性率は有意な上昇は認めず、その発現は基底層に限局していた。OSCCでは分化の程度が低くなるにしたがって、p75NTR、Ki-67陽性率はともに上昇しており両者には正の相関が認められた。また、p75NTRの発現率と頸部リンパ節転移の有無を比較すると、頸部リンパ節転移(+)群では有意にp75NIR陽性率が高かった。さらに、p75NTR陽性率を75%で区切りKaplan-Meier法で3年生存率を検索すると、p75NTR陽性率75%の群は有意に3年生存率が低下していた。以上のことから、p75NTRはOSCCでは未分化な細胞に高発現することが示唆され、OSCCの予後因子となりうる可能性が示唆された。
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