口腔白板症は口腔扁平上皮癌の前癌病変と考えられており、その癌化率は10%前後である。口腔白板症の病理組織標本を観察すると、上皮内に様々な程度の異形成が認められ、WHO分類では基底層が数層にわたって肥厚するほど異形成が強く、癌化する可能性が高いとされている。本来、粘膜基底層には組織型幹細胞である粘膜上皮幹細胞が存在しており、この『基底層の肥厚』という現象は粘膜上皮幹細胞の維持や分化の制御機構に何らかのシステム障害が生じ、分化の方向性が決定されず基底層の細胞が増殖したものと考えられる。しかしながら、この分子メカニズムについては、いまだ明らかにはされていない。最近の研究では、p53ファミリーであるp63が正常皮膚の基底細胞に発現しており、皮膚の上皮幹細胞の維持や分化の制御をしている可能性が示唆されている。また、p63は転写因子として考えられており、Notchシグナル伝達関連遺伝子がそのターゲット遺伝子である可能性が示唆されている。すなわち、口腔粘膜上皮において、p63とNotchシグナル伝達系のクロストークにより口腔粘膜上皮幹細胞の維持、分化の制御がなされている可能性が大きい。そこで、本研究は口腔粘膜の異形成をきたす分子メカニズムを解明するために、p63とNotchシグナル伝達系のクロストークに着目し、研究を行っている。 平成20年度では、口腔白板症および口腔扁平上皮癌の切除標本を用いて、p63の発現を免疫組織学的に検索したところ、口腔白板症では異形成が強くなるほど、口腔扁平上皮癌では未分化なものほど有意にp63陽性率の上昇を認めた。また、口腔扁平上皮癌細胞株においてもWestern blot法、細胞免疫染色法、RT-PCR法により、発現を認めた。
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