本研究では、癌性疼痛ラットおよび炎症性疼痛ラットに対して、神経幹細胞や神経栄養因子を使用することで疼痛抑制が可能であるかどうかを検討することにある。平成21年度では、癌性疼痛ラットと炎症性疼痛ラットを作製し、行動学的観察ならびに三叉神経節・三叉神経脊髄路核尾側亜核における神経化学的変化について検討を行った。癌性疼痛ラットの作成には、Walker 256B細胞をラット右側鼻毛部に接種した。炎症性疼痛ラットの作成には、Complete Freund's adjuvant(CFA)を同部位に投与した。モデル作成当日から7日後までにわたって疼痛テストを行った。疼痛テストとして、von Frey毛による機械刺激逃避閾値と輻射熱による熱刺激逃避潜時を測定した。機械刺激逃避閾値と輻射熱による熱刺激逃避潜時の低下が、癌性疼痛ラットでは接種後2日目より発生し4-5日目でピークに達したのに対し、炎症性疼痛ラットでは投与翌日より発生し2日目でピークに達した。抗炎症剤のインドメタシン腹腔内投与により、癌性疼痛ラットでは疼痛抑制がほとんど見られなかったのに対し、炎症性疼痛ラットでは強い疼痛抑制効果が見られた。また、三叉神経脊髄路核尾側亜核においてP物質やカルシトニン遺伝子関連ペプチドの発現が、癌性疼痛ラットでは変化が見られなかったのに対し、炎症性疼痛ラットでは強い増強が見られた。これらの結果より、癌性疼痛は炎症による疼痛影響をあまり受けていない可能性が示唆された。この結果はJournal of Dental Researchに掲載された。炎症による神経栄養因子の発現がP物質やカルシトニン遺伝子関連ペプチドの増強を引き起こし、落痛の原因となっていることはよく知られている。今回の結果より、癌性疼痛ラットでは神経栄養因子関連の物質を使った治療は効果が低いかもしれないということを示唆する。
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