研究概要 |
舌癌切除によって引き起こす摂食、嚥下機能の低下は、組織の実質欠損だけでなく、舌癌周囲の正常な筋の機能低下が影響している可能性が指摘されている。しかしながら、舌癌発症後の病巣周囲の正常な舌筋の筋線維特性の変化を詳細に検討した報告はみられない。そこで舌癌病巣周囲の舌筋について、それらを構成するミオシン重鎖(MyHC)の各アイソフォームの量的変化について検索を行い舌癌が与える影響について検索を行った。 平成20年度は、マウス口腔底扁平上皮癌由来の樹立細胞(SCC7細胞)を培養後、BALB系ヌードマウスの舌中央部に注入し、舌癌を発症させた。SCC7細胞注入1ヶ月後に、舌癌が発症しているのを確認後試料採取した。H-E像では、舌深部にNIC比が高く低分化な腫瘍細胞が発症しているのを確認できた。内舌筋は、腫瘍細胞と上皮との間でわずかに残されていた。筋収縮タンパクで速筋型に属するMyHCの2bと2aについて、免疫染色を施してみると、コントロールでは、MyHC-2bでほとんど構成されていたのに対し、舌癌発症群では、MyhC-2aで構成されていた。 次に、RTPCR法を用いたmRNAの発現を検索した。mRNAの発現は、コントロール群と舌癌発症群どちらの群においても、MyHC-2a,-2bの発現は認められた。mRNAの量を測定する目的で、次にLight Cyclerを用いてmRNAの定量を行った。その結果、コントロール群では、MyHC-2bの方が有意に発現していたのに対し、舌癌発症群ではMyHC-2aが有意に多く発現していた。この結果は、免疫組織化学的検索の結果と一致した。つまり、舌癌を発症すると周囲の正常な筋までも機能を変化させてしまうことが今回の結果から明らかとなった。 今後は、正常な筋が機能変化を起こしたメカニズムについて解明する予定であり、もし解明されれば癌を発症した場合に周囲の筋組織への影響を阻止し、正常な機能を維持できる可能性があるという点から意義のある研究であると考えている。
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