舌癌切除によって引き起こす摂食、嚥下機能の低下は、組織の実質欠損だけでなく、舌癌周囲の正常な筋の機能低下が影響している可能性が指摘されている。しかしながら、舌癌発症後の病巣周囲の正常な舌筋の筋線維特性の変化を詳細に検討した報告はみられない。そこで舌癌病巣周囲の舌筋について、それらを構成するミオシン重鎖(MyHC)の各アイソフォームの量的変化について検索を行い舌癌が与える影響について検索を行った。 平成22年度は、これまで行ってきた研究を最終確認する目的で手技はこれまでと同様に、マウス口腔底扁平上皮癌由来の樹立細胞(SCC7細胞)を培養後、BALB系ヌードマウスの舌中央部に注入し、舌癌を発症させた。SCC7細胞注入1ヶ月後に、舌癌が発症しているのを確認後試料採取した。H-E像では、舌深部にN/C比が高く低分化な腫瘍細胞が発症しているのを確認した。腫瘍細胞と上皮との間に残された内舌筋の筋線維特性について検索を行うため、筋収縮タンパクで速筋型に属するMyHC-2a、-2b、-2dや遅筋型に属するMyHC-1について免疫組織化学的検索を行った。 平成22年度では、腫瘍マーカーとして用いられるHMGB1について、発現の違いを検索した。その結果、舌癌を発症した部位で、著名にHMGB1が染色されるのが確認された。また、舌癌周囲の筋線維において、再生された筋として言われている中心核を持った筋線維が多数確認されており、それらの筋においても、HMGB1陽性に発現が確認された。HMGB1は異常な細胞に発現するだけでなく、前駆細胞の遊走や増殖などの活性にも関与するといわれていることから、癌によって破壊された部位を再生するために増殖が活性化した筋細胞が、HMGB1陽性として発現したのではないかと考えられた。
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