歯科治療時の局所麻酔時に遭遇する合併症(過換気症候群や脳貧血症状など)の減少や回避に繋がる局所麻酔薬と鎮静薬を同時に口腔内へ注射する試みは、倉沢洋一ら(2000年)により始めて報告されているが現在まで、この方法に関する詳細なエビデンスがない。そこで、本年度は鎮静薬(ミダゾラムが主体)を口腔内へ局所注射した際のバイタルサインを記録・分析した。その結果、鎮静薬の呼吸回数・心拍数・血圧にはコントロール群と有意な差は認められなかったが、経皮的動脈血酸素度には有意な差が認められた。血漿中のミダゾラム濃度は注射直後、5分値で最大(101.0±31.1ng/ml)を示し、その後は経時的に減少を示し、80分値は43.0±14.5ng/mlであった。・BISモニターで測定したBIS値はミダゾラム群では注射後、10分値(79.1±4.7)、20分値(64.6±7.5)、30分値(56.3±15.0)、40分値(58.1±17.6)、60分値(60.5±24.6)、80分値(92.2±5.8)でコントロール群と比較して有意な差を認め、30分値で最小を示した。血中濃度、脳波動態等を詳細に記録・分析できたことは、本研究の第一番目の大きな成果であり、未然の事故や合併症の防止ならびに、より安全な歯科治療の実現への始まりであると考えられる。この成果は、第56回日本麻酔科学会学術集会(2009年8月:神戸)で発表した。第二番目の課題である、genome DNAの遺伝子配列による鎮静効果の差異に関しては、精製したDNAをRestriction Fragment Length Polymorphism Polymerase Chain Reaction法を使用してGABAα6受容体ならびにCytochrome P450 3A subfamily遺伝子の変異を解析したが、これまでのところ鎮静度との有意な相関関係は得られていない。引き続き解析を進める予定である。
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