研究概要 |
近年、転写因子であるMSX1やPAX9が常染色体性優性に非症候群性の先天性多数歯欠損を引き起こす原因遺伝子として同定され、伝達不平衡検定(TDT)により、統計学的に永久歯胚が欠損する原因としてMSX1とPAX9との関連が認められている。そこで、平成20年度は、PAX9の変異を有する多数歯欠損の一家系においてすでに同定されているMSX1多型(C101G、 Ala34Gly)の機能を明らかにすることで、この多型が疾患の発症と関連があるかどうか検討した。このMSX1多型は、テキサス大学矯正科に来院した患者を発端者として、5世代、41名(患者 : 18名、正常 : 23名)のうち、インフォームドコンセントを得て、DNAが得られた21名(患者 : 8名、正常 : 13名)に、PCR増幅によりMSX1の多型解析を行い、既に同定されているPAX9にフレームシフト変異(793InsC)(J Dent Res, 2002)をもつ8名と正常2名から得られた多型である。タンパク間の機能解析を検討するため、793InsCPax9とAla34GlyMsx1タンパクをCOS7細胞内で発現させたところ、免疫沈降によりタンパク間の相互結合を認めた。また、歯胚の分化に重要なBmp4のプロモーター活性を評価したところ、野生型Pax9と793InsCPax9単独において転写活性に有意な差を認めなかった。また、793InsCPax9とAla34GlyMSX1の組み合わせと、793InsCPax9と野生型MSX1の組み合わせの間に有意な差はみられなかった。以上の結果より、PAX9の変異とMSX1の多型を同時に同定したものの、タンパク間の機能解析により、その多型と多数歯欠損の発症との関連を認めることが出来なかった。この家系において、多数歯欠損を引き起こす原因には、PAX9やMSX1の相互作用によるものだけでなく、これら二つの遺伝子以外にも様々な因子が関与した複雑な機序が存在する可能性が考えられる。
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