本研究の目的は、歯の移動時における様々な神経ペプチドの分布ならびに歯周組織の形成と吸収を3次元的に明らかし、さらに神経ペプチドの役割を明らかにすることで、神経系と硬組織の関連を示すことである。そのために、神経ペプチドの分泌および産生を3次元的に解析することにより、これらの局在や共存関係を明らかにする。さらに得られた所見から、神経ペプチドが骨の吸収や形成に果たす役割をin vitroの実験系において検討する事を目的としている。平成21年度は研究実施計画に従い様々な神経ペプチドの分泌および産生、タンパクなどのマーカーについても解析した。その結果、歯の移動に伴う痛み刺激により中枢においても様々なマーカーに経時的変化が生じていることが分かった。特に痛みのマーカーと考えられるFosや近年、痛みの発生に直接関与すると考えられるようになってきたグリア細胞について分布を検証した結果、実験的歯の移動時の侵害刺激が三叉神経脊髄路核において、マイクログリアとアストロサイトを活性化することを見出した。さらに、この活性化が生じる部位が、Fos腸性神経細胞周囲に限局的に生じることも明らかにした(2009年日本矯正歯科学会にて報告)。これらの最近の研究結果により、グリア細胞が歯の移動時の侵害刺激にも深く関与している可能性が示唆された。これらの結果は、歯の移動時に生じる痛みの原因となる反応が、"空間的にどの部位で生じているのか"、さらに"時間的にどの様に変遷するのか"が明らかにするものである。本研究をさらに進展させる事により痛みや歯周組織の改造現象をコントロールする研究が大きく進展することが予想され、矯正歯科臨床において治療期間の短縮や痛みのコントロール、さらに歯根吸収の抑制が可能となると考える。
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