本研究は小児歯科臨床における咬合誘導の治療計画立案の際に行われる歯列分析の精確性に寄与することを目的として、歯の大きさと顎の大きさの遺伝様式の比較検討および相互関連性について探究する。 これまでに本研究に用いたラットの歯の大きさがX染色体の遺伝子型に影響をうけることや、歯の歯冠幅径が生後の栄養状態の影響をうけることを示した。 歯の大きさの異なる二つの系統ラットでは35日齢の上顎長径に系統差はなく、下顎骨長径・高径・厚径に系統差を認めた。それら2つの系統を正逆交配したF1世代の顎骨の大きさは、上顎長径に系統差はなく、下顎厚径では母親が大きい系統と父親が小さい系統を交配した群が、母親が小さい系統と父親が大きい系統を交配した群よりも有意に大きかった。35日齢の発育期のラットの顎の大きさは歯の大きさと同様、大きい形質が優性的に遺伝する傾向が示された。F2世代の下顎骨長径・高径・厚径は正逆交配群の間に統計的に有意な差を認めなかった。しかし、歯の大きさに連鎖していると示唆されたX染色体のプライマーでの遺伝子型別に下顎骨の大きさを比較した結果、歯の大きさのように小さい系統由来の遺伝子を持つことにより下顎骨長径・高径・厚径が大きくなるという傾向を示さなかった。以上の結果からこの染色体部位では歯の大きさと顎の大きさに及ぼす作用が異なることが示唆された。
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