破骨細胞は様々なプロテアーゼを産生する。カテプシンEはアスパラギン酸プロテアーゼの1つで、活性型破骨細胞の波状縁に多く発現が見られるが、その役割については未だ不明である。矯正治療では矯正力を付与した歯は歯槽骨内を移動するが、これは圧迫側における骨吸収によるものである。この骨吸収を担う唯一の細胞が破骨細胞であり、矯正治療において破骨細胞の役割は非常に重要である。破骨細胞はM-CSF存在下でRANKLあるいはTNF-αによって誘導されるが、矯正治療における歯の移動にはTNF-αが深く関与していると考えられている。本研究ではカテプシンEの破骨細胞形成における影響を検討し、さらにTNF-αでの破骨細胞形成が関与する歯牙移動での役割を明らかにすることを目的とした。まずTNF-α誘導破骨細胞形成におけるカテプシンEの影響について検討した。カテプシンE欠損マウスおよび野生型マウスから採取した全骨髄細胞または破骨細胞前駆細胞をTNF-α存在下で4日間培養した。固定後、TRAP染色を行い、破骨細胞の数、大きさ、形態への影響を調べたところ、いずれも両者間に有意な差を認めなかった。次に歯の移動におけるカテプシンEの影響について検討した。カテプシンE欠損マウスおよび野生型マウスの上顎切歯部歯槽骨と左側第一臼歯間に10gfのNiTiクローズドコイルスプリングを装着し、左側第一臼歯を近心移動させた。12日後に歯の移動量を測定したところ、両者間に有意な差を認めなかった。TNF-αで誘導される破骨細胞形成やその活性化においてはカテプシンEの影響は少ないと考えられ、そのため歯の移動への影響も少なかったと考えられる。
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