【目的】歯に加えられた矯正力(メカニカルストレス)は、歯根膜細胞を介して何らかの情報が歯槽骨等に伝達され、歯周組織のリモデリングの結果、歯の移動を生じる。本研究では、メカニカルストレスの一つである重力負荷に対する歯根膜細胞のシグナル応答を、細胞内にリン酸化シグナルを伝えるMAPキナーゼの一つである、ERKのリン酸化を指標として検討した。 【資料および方法】矯正治療のため抜去した小臼歯からヒト歯根膜細胞を分離し使用した。今回の実験には、5~8継代目の細胞を使用した。分離したヒト歯根膜細胞を12wellプレートにて、コンフルエントになるまで培養した。その後、低速遠心機によりCO2インキュベータ内で重力を7G~25Gで5分間負荷し、ERKのリン酸化を抗リン酸化抗体を用いウエスタンブロット法にて検討した。また同時に、ATP(10μM)の添加によるERKのリン酸化の検討も行った。 【結果および考察】歯根膜細胞に重力を負荷すると、加重と負荷時間に依存してERKのリン酸化が認められた。5分間重力負荷によるERKのリン酸化は、ATPaseであるapyrase、およびプリン受容体阻害剤のsuraminによって阻害され、また培養液にATPを加えても同様の反応が見られた。ERKのリン酸化はイオノマイシンでも認められたが、培養液からCa^<2+>を除いても重力とATPによるERKのリン酸化には影響しなかった。ATPは細胞膜上のプリン受容体に結合し、シグナルを細胞内に伝達する。プリン受容体には、P2X(カルシウム流入)とP2Y(Gプロテインシグナル)の二つがある。以上のことから、重力負荷によるERKのリン酸化シグナルには、P2Y受容体の関与が示唆された。 【結論】歯根膜細胞における重力負荷は、細胞からATPを放出しP2Yタイプのプリン受容体を介してERKのリン酸化を促進していることが示唆された。
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