歯科矯正治療に用いられているマルチブラケット装置の、ブラケットおよび接着材を歯質から撤去する際に、歯質障害が少なくかつ、より容易に行うため、加熱すると体積が70倍膨張して接着強さを減少することができるマイクロカプセル(粒径10~30μm)を混入した試作矯正装置用接着材を開発し、その適用時の接着材層の厚さと接着強さの関係について比較検討を行った。一昨年度におけるその成果より、被接着面とブラケット基底面との間に100μmの適度な厚さが、加熱によって最も効果的に接着強さを減少することができることが判明した。しかし、実際の臨床においてその厚さを正確に保ちながら接着することは現実的に不可能である。そこで本年度は、臨床にできるだけ早く応用するための糸口として、セラミックブラケットにあらかじめ組み込まれていることを想定して、その接着材を基底面に100μmの厚さで築盛硬化させ、その上から既存接着材を用いて接着した群と、あらかじめブラケット基底面に築盛硬化している接着材層とマイクロカプセルを含有した接着材を用いてそれらの層の合計が100μmになるよう接着した群で、接着強さを計測比較し検討した。その結果、合計が100μmの群は、加熱前の接着強さが4.57MPaと矯正治療に耐えられる強さではなく、100μm築盛し接着した群に比べ有意(p<0.05)に小さかった。一方、100μmに築盛して既存接着材にて接着した群は8.11MPaと適度な接着強さを持ち、加熱することによって2.69MPaと接着強さが有意(p<0.05)に減少して見られた。そのため、マイクロカプセルを効果的に応用するためには、100μmの厚さをもってブラケット基底面に事前に組み込まれた状態で、既存の接着材を用いて接着されることが、早期応用として現実的であることが確認された。
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