研究概要 |
これまでにイルソグラジンマレイン酸(IM)がAggregatibacter actinomycetemcomitans (Aa)によって誘導されるヒト歯肉上皮細胞(HGEC)のIL-8産生を抑制すること,及び細胞間結合能の低下を回復することを明らかにしてきた。このことから,IMは歯周病に対する予防効果があると考え,本研究では,歯周病原細菌刺激下の歯肉上皮におけるIMの影響について,in vivoおよびin vitroの面から検討した。In vivoでは,IMをFishcer344ラットに投与後,Aaを歯肉溝に塗布し,ケモカインCINC-2α,細胞間接着蛋白E-cadherinの発現を免疫組織化学的に検討した。IM投与群は,非投与群と比較してAaによって歯肉内縁上皮へ誘導される炎症性細胞の数が少なく,CINC-2αの発現が低かった。一方,IM投与群は非投与群よりもE-cadherinの発現は高かった。また,HGEC培養系において,Aaで刺激したHGECのCXCL-1, IL-8およびE-cadherinの発現に対するIMの影響をmRNA及び蛋白レベルで検討したところ,Aaによって誘導されるCXCL-1, IL-8の発現増加をIMは抑制した。さらにHGECにおけるE-cadherinの発現はAaによって減少するが,IMはこの発現低下を回復した。したがってAa刺激によって惹起された炎症に対し,IMが歯肉上皮への炎症細胞浸潤を抑制するとともに,細胞間バリアーを強化し,炎症を制御することが示唆された。以上からIMの抗炎症効果が証明され,歯周病予防に有用であることが示唆された。
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