歯周病の本態は歯周病原性細菌の感染による炎症性疾患であるが、生活習慣に関する様々な環境因子が大きな進行リスクとなる生活習慣病でもある。これまで、歯周病と全身疾患との関連は、早期低体重児出産や、糖尿病、心臓血管疾患などを中心に疫学的な調査で実態が明らかになり、そのメカニズムも血管を介したサイトカインによる相互の影響や、歯周病原細菌の感染によるアテローム形成促進など徐々に解明されている。近年、メタボリック症候群の概念が提唱され注目を集めているが、歯周病との相互関係に関する知見は未だ乏しい。本研究では、メタボリックドミノの全段階における関係が注目されている、組織レニン-アンギオテンシン系(RAS)を軸として、メタボリック症候群と歯周病との関係を分子生物学的に解析することを目的としている。前年度までにヒト歯肉組織におけるRAS構成要素の遺伝子発現と、免疫組織化学的手法によりAngiotensin type I receptor (AT1R)の発現を確認した。本年度はin vitro系でヒト歯肉線維芽細胞を用いて検討を行ったところ。(1) IL-1β刺激によるAT1Rおよびアンギオテンシン変換酵素の遺伝子発現の上昇。(2) AT1R遺伝子の発現抑制系(siRNAを用いたgene silencing)における、IL-1β刺激によるIL-6の遺伝子・タンパクレベルでの発現抑制。以上の知見を得た。これらのことからヒト歯肉における組織RASの存在と歯周組織における炎症反応にRASが関与している可能性が示唆された。また、AT1RのIL-1β刺激系に対する作用機序の解析等、歯周組織におけるRASの役割に関して、より詳細な検討を行う必要がある。また、歯肉組織に炎症が存在する場合、歯肉局所でのRASの活性化も予想される。今後、局所RAS活性化が全身に与える影響等の疫学的検討も必要と考えられる。
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