【緒計】姿勢に関する指導は、摂食機能療法における食環境指導の大きな柱であるの一つであり、また間接的・直接的訓練開始時の重要な事項であり、摂食指導の現場において多く実施されている指導の一つでもある。そこで本研究は、咀嚼動作が座位重心動揺に与える影響を明らかにすることを目的とした。 【対象と方法】顎口腔系に異常を認めない健康成人で本研究の参加に同意の得照れた5名(男性4名、女性1名、平均年齢28±1.2歳)とした。測定姿勢は背もたれのない椅子に足底の接地しない躯幹座位および足底を接地させた単座位とした。それぞれの姿勢において30秒間の安静時および咀嚼時の重心動揺距離および動揺面積をFootScan System(Rsscan社製)を用いて測定した。 【結果】重心動揺距離について、躯幹座位および単座位の両者において咀嚼動作により安静時と比較して重心動揺距離の増加が見照れた。また、安静時と比較した増加幅については各姿勢に違いは認められなかった。動揺面積では、姿勢および咀嚼の有無による著明な変化は認められなかった。 【考察】摂食・嚥下動作の中でも高度な動作とされる咀嚼においては、顎の側方偏移など重心を変化させる要素が多く含まれる。また、頚定を含めた体幹保持機能と摂取可能な食形態の間には、関係性が強いとする報告もみられる。実際の摂食動作においては咀嚼だけでなく、自食のための上肢動作も加わるために、さらに重心動揺は複雑に変化するものと推察される。本研究において、体幹保持機能の十分な健康成人であっても、咀嚼動作に伴い重心動揺距離の増加が認められた。以上のことから、摂食訓練においては、咀嚼機能の獲得に向けたリハビリテーションのみならず、体幹保持機能獲得のための支援が必要であることが示唆された。
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