腐敗等の死後変化を防止、遅延させる方法として、エンバーミング(遺体衛生保全)がある。近年、多発している大事故・大災害等で多数遺体が発生した場合の身元確認従事者の安全、公衆衛生や心情などを考慮し、アロマオイルを応用した簡易的な遺体衛生保全の可能性を検討した。アロマオイルは、抗菌作用が強いとされるEucalyptusやLemongrass、Peppermint、Tea Tree、消臭作用を有するとされるCinnamonやFennel、Pine、鎮静作用を有するとされるCedarwood、LavenderやMyrrhを選択し、検討を行った。 口腔内常在菌であるPorphylomonas gingvalisやStreptococcus mutans、Streptococcus sanguinisなどのATCC株や臨床菌株、生体口腔内より採取した唾液、歯垢検体に対しての抗菌力を、ディスク拡散法に準ずる方法にて検討した。アロマオイルの種類によっては、抗菌性菌と嫌気性菌に対する抗菌力の差を認めたが、Cinnamon、Lavender、Lemongrass、Peppermint、Tea Tree、は両者に抗菌作用を認めた。 また、臭気官能試験によるアロマオイル10種の快不快度を調べたところ、最高は+3(非常に快)、最低は-2(不快)の評点であった。被験者のほとんどが7〜8種のアロマオイルに0(快でも不快でもない)〜+(快)の評点を与えた。しかしながら、遺体に応用するという本来の目的に対し、嗜好性を重視し、適切なにおいを選択したとは言い難いとの意見も聞かれた。 本研究により、簡易的遺体衛生保全におけるアロマオイルの使用の有用性が示唆された。今後、遺体への使用に際し、濃度や作用方法、評価方法のさらなる検討を進める予定である。
|