本研究の目的は、成人の生活習慣病対策に係る生活習慣の形成・改善について自己管理スキルに着目し、学齢期の歯肉炎予防を通じたブラッシングの自己管理スキルの育成を端緒として発展させようとするものである。具体的には、ブラッシング行動に限定した自己管理スキルを明らかにし、介入研究によりブラッシング行動の自己管理スキルひいては行動全体の自己管理スキル向上を目指す。一つは、昨年度の研究で開発した、ブラッシング特有の自己管理スキル尺度(ブラッシング行動スキル尺度)の小学生児童以外の年齢への応用を試み、高校生ならびに成人にも応用可能であることが確認された。これと並行して、ブラッシング技術の向上を目的とする歯科保健指導が行われている小学校にて、歯科保健指導前後のブラッシング行動スキルおよび一般的な自己管理スキルの変化を検討した。指導後は児童自身のブラッシング行動を判断する目が厳しくなったため、児童のブラッシング行動スキル得点が低下したものの、因子分析による因子構成はブラッシング行動の定着を示す内容へと変化し、歯科保健指導による行動変化の過程が示された。また、歯科保健指導前後とも、歯肉炎有病状況とブラッシング行動スキル得点の間に相関が確認され、歯肉炎が広範囲にみられる者ほどブラッシング行動スキル得点が低い傾向が示された。これまでに歯科保健行動と関連する心理測定尺度の先行研究はあるが、歯肉炎有病状況との関係が認められたものは見当たらない。本研究によって明らかにしたブラッシング行動の自己管理スキルという概念および測定尺度が、歯肉炎の予測因子として利用できる可能性が示唆された。
|