研究概要 |
本研究は,筋肉内注射(以下,筋注)技術において,筋層に留まるべき薬液が皮下組織に漏れるのを防ぎ確実に筋層に封入する工夫として海外で紹介されているZ-track法に着目し,当該方法の実施意義の有無を検証することを目的とした. まず,臨床の現状としてZ-track法を実践する看護師がいる施設で参加観察,聞き取り調査を行った.看護師はそれぞれ個人的な研修会参加,文献検討等の学習によりZ-rack法を実践している者,実施意義が不明として実施していない者,そもそも方法を知らない者と様々であったが,実施経験のある看護師でも効果については実感しておらず,看護師の意識・実態としてはZ-rack法の意義は不明であることが分かった. 臨床調査と並行して実験的検討を行った.Z-rack法の原理である皮膚表面の伸展による皮下組織層の移動が確実に生じるのか検証した.Z-rack法で皮膚表面を伸展させたときの皮膚表面の移動距離に対する皮下組織層の程度を明らかにし,原理のイメージどおりに皮下組織層を移動させるのはかなり困難であることを確認した(全国学会誌に論文掲載).さらに,Z-rack法の効果として薬液の皮下への漏れの有無をみるために,Z-rack法実施の有無による筋注時の薬液の筋層内封入状況を比較した.実験用動物へ実際に用いられている筋注製剤を投与したが,Z-rack法がとくに皮下への漏れ防止に有効であるとの所見は得られず,むしろZ-rack法を用いると組織傷害性が強い傾向があった(全国学会にて発表).また,注射時の強い筋緊張の様子からもZ-rack法は対象者の苦痛が強いことが示唆された(全国学会にて発表). 以上の結果は,根拠が乏しいまま紹介され,効果の自覚もないまま臨床で実践されているZ-rack法に対し再検討の必要性について喚起を捉す研究成果であると考える.
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