皮膚の浸軟状態は、褥瘡発生要因および褥瘡治癒遅延要因として着目されているが、皮膚の浸軟状態における組織学的変化について詳細に検討した報告は少ない。そこで本研究では、皮膚の浸軟状態を作製し、その組織学的な基礎データを集積することを目的とし、実験を行った。日本白色種雄性ウサギを実験に供し、その両背部を除毛後、浸軟状態を作製した。浸軟部位について、肉眼的観察と皮膚水分率の測定を経日的に行った。浸軟状態作製1、3、5日目に浸軟部位の皮膚組織を摘出し、常法に従い組織標本を作製後、ヘマトキシリン&エオジン染色を施し、光学顕微鏡にて観察した。また、皮膚の創傷治癒過程における浸軟状態の影響を確認するため、背部に人工創傷を作製したウサギを同実験に供し、同様の操作を行った。なお、本実験は実験動物に関する指針に準拠し、動物福祉の観点から適正に実施した。各日の皮膚水分率測定では、周囲健常皮膚の水分率に対し、浸軟部位では約2倍の値を示した。肉眼的観察においては、浸軟部位に異常は認められなかった。組織学的観察では、表皮の重層化や炎症性細胞の出現などが確認され、皮膚の浸軟状態は、肉眼的に判定できない場合でも、組織学的には褥瘡を発生しやすい状況にあり、すでに皮膚傷害をきたしている可能性があることが示唆された。また、創傷治癒過程において、上皮化および肉芽形成が遅延する組織学的所見が得られ、以上のことから、皮膚の浸軟状態は、皮膚を脆弱化させるだけでなく、創傷治癒においても、その過程を遅延させることが示唆された。
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