本研究の目的はヒトの生理活性物質及び神経伝達物質を主要指標として、成人を対象に蔗糖誘発鎮痛法Sucrose-induced Analgesia(SIA)の鎮痛根拠を解明することである。蔗糖誘発鎮痛法(SIA)は既に新生ラットやヒトの新生児で効果が実証されており、この鎮痛機序には内因性オピオイド物質及び下行性疼痛抑制系が関与すると考えられている。ただし、新生ラットや新生児の成長(加齢)に伴って、蔗糖による痛覚抑制効果は減弱することから成人での検証はほとんど行われていなかった。その上で、近年私は成人でもSIAの効果が一期待できることを立証した。しかしながら、成人においてはSIAの効果がどの程度期待でき、また具体的な鎮痛機序については未だ明確ではない。つまり、本研究ではSIAの効果を生理活性物質及び神経伝達物質を主要指標にするとともに心拍変動、痛覚閾値、耐痛閾値、情動反応、痛みに対する主観的評価の各測定データも加えることによって成人でのSIAの鎮痛機序及び有用性について多角的に検証している。使用する溶液は甘味である蔗糖溶液に加えて、苦味であるキニーネ溶液及び無味の蒸留水の複数溶液で比較・検討を行っている。平成20年度は研究計画に沿って、成人を対象に甘味による抗侵害受容効果について検証した。実験的疼痛には冷水によるCold Pressor Test(CPT)を採用し、この痛覚刺激方法についても確立している。予備実験は既に終了し、この甘味刺激による抗侵害受容効果は下行性疼痛抑制系の関与を示唆する結果も得られてきている。よって、次年度も研究目標の達成と甘味による鎮痛効果の機序を含めた研究成果の提示にむけて本年度同様、研究を展開していく。
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